3000系電車
製造:1969〜76・79〜82
2000系のモデルチェンジ版として設計した汎用車で、上急と長電の合併後初の新型式車両である。5000系と13000系は当型式の同系車である。
製造に至る経緯
1950年代後半以来―特に1960年代前半以降―東上線池袋口と大宮線では630系・800系・2000系・2050系の20m4扉車が通勤通学輸送に活躍しており、1960年代後半に入り更に輸送需要が増大していた。
そんな折、通勤通学輸送を主目的としつつ全線に亘り運用可能な車両を、当時計画を始めていた新型特急用車両と中長距離用一般型車両の新製を見据えた設計思想の元、設計・新製した車両が当型式である。
新製時の概要
基本的な車体構造は2050系のものを踏襲したが、屋根部のそれは2000系と同様とした。
走り装置・主要機器
制御装置はMMC型多段式主制御器1台で主電動機8個(定格:端子電圧375V・定格出力150kW・定格回転数1,680rpm)を直並列制御する方式である。駆動方式は中空軸平行カルダン(歯数比86/15=5.73)で、制動方式は発電制動常用のHSC-Dである。尚、抑速制動は一部編成(後述する)のみに装備し、大多数の編成には準備工事を施している。
台車はS型ミンデン式を初めて採用し、枕ばねは車体直結式空気ばねで、基礎制動装置は従来の車両同様の両抱き式である。
車種型式・編成
Tc1(クハ3100形)、M1(モハ3200形)、M2(モハ3300形)、Tc2(クハ3400形)、T(サハ3500形)、M3(モハ3600形)、Mc1(クモハ3700形)、Mc2(クモハ3800形)、T1・T2(サハ3900形)の9車種型式をそれぞれ組成する。
編成は各種用途・運用に対応すべく、2両・4両・6両・8両の各固定編成を組んでいる。組成内容は下掲の通り(新製出現順)。
- 4両:(1位寄から)Tc1-M1-M2-Tc2。
- 6両:(同)Tc1-M1-M2-T-M3-Tc2。
- 2両:(同)Mc1-Mc2。
- 8両:(同)Tc1-M1-M2-T2-T1-M1-M2-Tc2。
新製年次による変化
12年(1969〜76・79〜82年度)に亘り新製を続けた為、各所・部位に変化が見られる。
- 1〜4次(1969〜72年製造)
4両固定編成のみ存在し、非冷房・扇風機付きで落成している。制御装置と集電装置はM1車に、補機類はM2車に電動発電機(9kVA)と電動空気圧縮機(990L/分)2台を備えている。尚、M2車の1位寄貫通路には吹き抜け風を防止する為に両開き扉を備えている(幅1,200mm・自動閉扉機構付)。 - 5〜8次(1973〜76年製造)
上信急行の一般車では初めて冷房装置(42000kcal/h・集中式を屋根上に1台/両)を搭載した。天井部に風道を通し横流送風機を用いて冷風が均等に行き渡る方式にしている(特急型車両では分散/集約分散式を採用したが、一般型車両では屋根構体の補強を伴うものの、部品点数の軽減を目的に集中式を採用)。それに伴いM2車搭載の電動発電機を150kVAに変更した。Tc1車を除く各車の1位寄貫通路に両開き扉を備えている。
組成は4両固定に加え、当型式の主要運用線区における輸送需要の増加と長編成化への対応上、新たに6両固定編成が出現した。それと同時に4両固定で既に落成していた編成の一部へ挟むべく、中間車2両を増備した。当該増備のM3車には制御装置と主電動機を、T車には70kVAの電動発電機と電動空気圧縮機(990L/分)を備えている。M3車は単Mであるが、制御装置と主電動機はM1車と同一のものを装備し、1C4M永久直列制御にて対処している。
尚、7次車からはM2車の電動空気圧縮機を2,130L/分・ゴム可撓継手のもの1台に変更した。
当グループを以て当型式は一旦製造を打ち切り、7000系の新製へ移った。 - 9〜12次(1979〜82年製造)
支線・地方線区に残存していた旧型車置換えと東上線の輸送力増強用に製造を再開した。当グループは5000系と7000系の設計思想を採り入れ、側窓を一段下降式に変更した(7000系1〜3次車のそれは構造に起因する不具合があり、5000系と同じ構造を踏襲した)。それと同時に運転台高さを150mm扛上し床面から300mmとし、貫通路の幅を従来の1,200mmから800mmに狭め各車1位寄設置の扉を片開きとして乗客・係員の車両間移動時の負担を軽減した点も併せ、外観が変容している。その為、8次車以前との区別上「新3000系」若しくは「N3000系」と称するが、車両運用上は同一に扱い、型式の番台区分もなく、車両番号も続きのものを付している。
編成は従来同様の4両固定に加え、新たに2両固定と8両固定が新たに出現した。当該増備のMc1車はM1車を、Mc2車はM2車を先頭車化―T1・T2車はTc1・Tc2車を中間車化―した形態である。Mc2車の補機類は電動発電機がT車同様の70kVA、電動空気圧縮機は13000系・5000系と同一の1,590L/分・ゴム可撓継手のものを装備した。
尚、前述の通り大多数の編成について準備工事に留めていた抑速制動であるが、当グループの2両固定と4両固定の各編成には実装しており、上信線と山ノ内線に存在する山線区間への入線を可能としている。
主な改造
旅客サービスの向上と経年劣化への対応、使い勝手の向上を図るべく、各部位に改造を施している。
全編成・車両へ及んだもの
- 列車無線取付
1976〜77年に、異常事態発生時に迅速な情報伝達を図る目的で、全先頭車の乗務員室へ列車無線装置を取り付けた。 - 特別修繕工事
経年劣化による各部位の傷みを修繕すべく、新製後15〜20年・30年〜35年経過を目安に実施した。実施年度により細かな内容は異なるが、施工車両は内装が変容しているのでそれと分かる。
一部編成・車両へ及んだもの
- 非冷房車への冷房取付
1〜4次車は新製当初全て非冷房であったが、1984〜86年に冷房装置の取付と補機類の吊替(電動発電機:9kVA→140kVA・BLMG/電動空気圧縮機:990L/分×2台→2,130L/分。いずれも当時の最新型車両6000系の装備品と共通)を実施した。 - 編成組替
1981年の長野市内地下線開業に合わせ改造・充当していた2000系の老朽化に伴い、1995〜97年に当型式の9〜12次車のうち2両固定と4両固定の一部を3両固定編成に組み替えると同時に、前述の特別修繕工事を併せて実施した。
編成両数の関係上、M2車とMc2車の電動発電機を110kVAのもの(2000系の廃車発生品)に取り替えた。
尚、組替当時は充当先の長野地区にてワンマン運転の計画を進めていたが頓挫しており、対応する設備については車体側面への車外スピーカ取付準備工事と行先・種別表示装置の取付、先頭車前面の同装置の電動化(側面取付のものと連動する)のみを先行実施した。
ワンマン運転対応工事
運転業務の合理化に伴う一部線区の車掌省略、所謂ワンマン運転に対応すべく、1998・2002〜2006年に9〜12次車のうち2・3・4両固定の一部へ改造を実施した。
主な改造内容はマスコンハンドルの交換(デッドマン付に)、自動放送装置の取付(発車ブザ鳴動機能を付加した車外スピーカを設置)、行先・種別表示装置の電動化と同装置の車体側面への追設、車内天井部への監視カメラ設置等で、運転台周囲にも変容が見られる。当該改造と同時に特別修繕工事を実施し、接客設備をバリアフリー対応とした。尚、前面窓の周囲を従来の黒色から緑青色(帯色と同じ)に塗り替え、ワンマン運転非対応車との識別を図っている。
運用線区により運賃収受方法に差異があり、車内にて運賃収受する線区へ充当する編成は前述の改造内容に加えて運賃箱、運賃表示機、整理券発行機を設置している。
現況
1970年代後半以降、上急を代表する車両として新渋川〜伊香保を除く各路線、特に東上線系統にて活躍して来た。しかし1〜8次車は淘汰が進み、9〜12次車についても主な活躍の場が高崎営業局・長野電鉄営業局管内を中心としたワンマン運転実施の支線区へと変容している。